アルバムレビュー

Gunther Schuller, John Lewis:Jazz Abstractions (Atlantic 1960年)

ガンサー・シュラーは1925年ニューヨーク生まれ、ホルン奏者、作曲家として活躍し、ニューイングランド音楽院の学院長、また小沢征爾などとタングルウッド音楽祭も主催し、その活動は実に多才だった。そのような活動の中で特筆すべきなのは五十年代の後期からのジャズとクラシックを融合した「サード・ストリーム・ミュージック:第三の流れ」という新しい音楽の確立を目指したことである。その試みにジョン・ルイスが共感し、二人が中心になって作られたのが本アルバムである。二人の他、ジム・ホールオーネット・コールマンエリック・ドルフィービル・エバンス、エディアィ・コスタ、スコット・ラフォロ、ジョージ・デュヴィヴィエ、スティックス・エバンス、アルヴィン・ブレーム、それに弦楽合奏が加わると言う豪華メンバー。全部で4曲。そのうちシュラー作が3曲、ジムホール作が1曲。1曲目の「アブストラクション」(G. Schuller)はコールマンと弦楽奏者とのインタープレイが聴き所。2曲目は「ギターとストリングスのための詩」(By J. Hall)は弦楽五重奏がテーマを演奏し全体の主導権を保ち、ホール、ラフォロがそれにバリエーションを加えている。3曲目は「ジョン・ルイスのテーマによるヴァリエーション」(G. Schuller)はルイスの作曲の「Django」をテーマに書かれている。前半はホールとラファロのデュオが中心、中間部は弦楽合奏、後半にドルフィーのフルートソロで音楽全体が高揚する。4曲目が「セロニアス・モンクのテーマによるヴァリエーション」(G. Schuller)はモンクの「Criss-Cross」を題材による演奏。コールマン、ドルフィー、コスタ、ラファロ、それぞれのソロが際立っている。ところであらためて「サード・ストリーム・ミュージック」とは何だったのかと問うなら、それは新しいエクリチュール音楽への試作だったのではないか。そうだとすればジャズにとっては大いなる矛盾であろう。なぜなら即興を予定調和として抑えつつ全体の構造をかなりの部分、固定されるなら、それはクラシックとジャズがお互い触発されるというより、ナンセンスとナンセンスが合わさった過剰な意味を布置するか、もしくは不在と差異を保ったままの関係に過ぎないからである。ただこのアルバム自体の演奏はすばらしいし、ジャズの歴史の位相に一時の刺激をあたえたことは事実であろう。そう言う意味では心にとどめておく1枚ではないかと思う。